LPガス国家備蓄基地
地下岩盤貯槽建設プロジェクト

※倉敷国家石油ガス備蓄基地(写真提供 : JOGMEC)

LPガスの安定供給のため、計150万トンの備蓄基地を建設する国家プロジェクトがスタート。
国内では初の試みとなる「水封式地下岩盤タンク方式」に、気鋭の技術者たちが挑む――

START

LPガスの安定供給を目指し、
国内初のプロジェクトが始動

我々の生活に欠かせないエネルギーの一つである、LPガス。
天然資源に乏しい日本という国に暮らす以上、エネルギーの備蓄構想は国家運営に常につきまとう課題である。

LPガスの約80%は海外からの輸入に依存し、しかもその80%の輸入元が中東地域に集中しているという現在、仮にこの地域からの供給が途絶えることになれば、生活に大きな支障が出ることは必至だ。

このため、LPガスの安定供給を目指し、150万トンのガス備蓄基地を新たに建設するという国家プロジェクトが1992年にスタートしたのであった。

七尾(石川県)、福島(長崎県)、神栖(茨城県)の3か所の地上基地で、計65万トンの備蓄。

残りを岡山県倉敷市で40万トン、愛媛県今治市波方町で45万トンを備蓄する計画であったが、この2か所の基地は地下に建設され「水封式地下岩盤タンク方式」という国内初の貯蔵方式が試されるという。地下の岩盤に掘ったトンネル(貯槽)内に、地下水の圧力でLPガスを封じ込める一大作戦。

指揮を執るJOGMEC(石油天然ガス・金属鉱物資源機構)から、本プロジェクトへの当社の参画要請がすぐに発令された。これまでにダムや地下発電所建設などの現場を豊富に経験してきた当社のコンサルティング力が買われ、地質・地下水・トンネル力学の技術者メンバーが招集された。

PROJECT MEMBER

土木本部 地下環境技術部 H・K

1991年度入社。入社以来、地盤関連業務に携わってきた経験を買われ、今回JOGMECへの出向及びプロジェクトへの参画が決まる。
専門は岩盤力学。本プロジェクトを通じて博士号(工学)の学位を取得。

CHALLENGE

いいことづくめの「水封式」を、
日本の岩盤に適用する

※波方国家石油ガス備蓄基地(写真提供 : JOGMEC)

LPガスを地下に貯蔵することのメリットは、小さい用地で済むことはもちろん、地震の揺れにも強く台風や雷などの自然災害の影響も受けにくいことである。

さらに地下水圧を利用してガスを封じ込めるため、貯蔵中のメンテナンスもほとんどいらないという運用のしやすさがあげられる。いいことづくめに思える「水封式地下岩盤タンク方式」は、実際に海外ではメジャーな方式ですでに12カ国・70カ所以上の基地で実績がある。

しかしヨーロッパなどの強固な岩盤と異なり、プレートの境界上に国土が位置する我が国の岩盤には、少なからず亀裂が存在する。それでも比較的強固な花崗岩の岩盤をもつ倉敷と波方の2カ所に狙いを定め、2001年に工事は着工した。

当社は2004年ごろからプロジェクトに参画し、JOGMECの技術者と共に「水封トンネル」及び「LPガス貯蔵トンネル」の掘削計画を練った。

「実際に施工するのは土木JVですが、工事計画を立てるために必要なデータ解析こそが、私たちの重要な任務なのです。しかし、亀裂を有する岩盤にLPガス貯蔵に足りうるトンネルを作り上げることは、まさに「水との戦い」でした」(H・K)。

SUCCESS

精密なデータ管理で
「水との戦い」を制する

道路トンネルを始めとして、通常トンネル掘削中に水が出た場合はどんどん抜いて、トンネルにかかる水圧を下げる方法も採れる。

「その方がトンネルを安定させやすいわけですが、今回は常にトンネル周囲に地下水が満ちていて水圧がかかるようにしておかなければ、貯蔵後にガスが漏れる可能性が残ることとなります。トンネル掘削時には、そのさじ加減が最大の難関だったのです」(H・K)。

建設では、あらかじめ地盤に人工的な水圧をかけながら、一方でグラウト工(セメントを岩盤に注入して固めること)により過剰な湧水を抑制しつつ、トンネル空洞の周りを適切な水圧分布にするという、極めて困難な技術対応が求められた。

このような要求品質に応えるためには、岩盤に埋めた水圧計のデータを随時チェックしながら、解析によって予測を行って随時施工にフィードバックする手法が用いられた。

「過去にダム工事などでグラウト工を監理した経験はもちろんありますが、地下水対策では、当社の地質・地下水関連の技術者は大変な苦労を強いられました」(H・K)。

明けても暮れても「水」に苦しめられる日々は続き、ついに4年にわたるトンネル掘削工事は2011年の秋に完了した。

続いて、配管やポンプ類の設置等を経て「水封式地下岩盤タンク方式」を実証する最終段階に入った。その実証試験は「気密試験」と呼ばれ、トンネル内に空気を送り込んで気圧を設計圧力までに高め、72時間の変化を測定して圧力容器としての気密性を判定するものである。補正後の圧力変動量は、判定基準の±500kPaに対して、2~22kPaと極めて優秀なものであった。

「力学専門の技術者である我々は、水やガスといった流体を扱い慣れていませんでしたから、その面も大きな挑戦でした」(H・K)。

NEXT

苦労を重ねたプロジェクトが
「土木学会賞」を受賞!

その後、最終工事を経て倉敷・波方ともに2013年春に無事に竣工。本プロジェクトは、「水封式地下岩盤タンク方式」を国内で初めて実証し、岩盤空洞の設計・施行技術の発展に大きく貢献したと評価され、同年度の「土木学会賞」を受賞した。
我々の努力が認められ、また当社が本プロジェクトに携わった8年にわたる長き歳月が、見事に結実した瞬間であった。

現在は、2017年度中までに150万トンの備蓄を達成するために、毎年約20万トンのペースでLPガスをトンネル内に注入する作業(ガスイン)が進められている。ガスインによってトンネル内の圧力や温度等が変動するため、エジェクターと呼ばれる貯槽内圧抑制設備を駆使しつつ、最後まで安全に推進することが目下の課題だ。ガスイン完了後は、その後50年間にわたって安定した操業を行っていくことが求められている。両基地共に人工的に地下水のバリアを作り上げてガスを封じ込めているため、この水膜が途切れないように常にデータのチェックを怠らず、次世代に引き継いでいくことが重要である。

「本プロジェクトは、自分たちだけのチームのみならず、土木施工JVや設備JVをはじめ、当社火力本部の技術者など本当に多くのメンバーが関わって成し遂げることのできた偉業であったと感じます。これまでに携わったどの仕事よりもスケールが大きく、ライブ感のある業務でした。困難は多々ありつつも、関係各社メンバーとの一体感の中でプロジェクトが遂行できた経験は、何事にも代えがたい喜びでしたね」(H・K)。