プロジェクトストーリー

パハン‐セランゴール導水
プロジェクト

大都市クアラルンプールの水不足を解消するため、全長44.6kmの導水路トンネルを掘る――。東南アジア最長となるトンネル掘削プロジェクトに、立ちはだかる試練とは?

プロジェクトメンバー紹介

海外事業本部 パハン‐セランゴール導水建設事務所 所長 M・O
入社後、国内でトンネルやダム建設に携わった後、1997年よりインドネシアにて水力発電所の建設に従事。2008年以降、海外関連プロジェクトの統括業務を歴任する

START

大都市を潤すため「新たな水源」を構築する

マレーシアの首都・クアラルンプール。160万超の人口を抱え、東南アジアの都市ランキング・第4位を誇る大都会である。さらなる人口増に加え、工業都市としての発展も期待され、今後ますます生活・工業用水の需要が高まるだろうと予測される中、懸念されるのは圧倒的な水不足だ。クアラルンプールを含むセランゴール州では、すでにほとんどの水資源が開発されつくしており、今以上の供給量は見込めないとされている。一方、隣接するパハン州では今なお広大な自然が残り、多くの水資源が未開発のまま埋もれている。「有る土地」から「無い土地」へ、水を運ぶ――パハン州からセランゴール州まで長大な導水路トンネルを建設するという、大規模な国家プロジェクトが立ちあがったのは自然な流れだったのかもしれない。
「トンネルの全長は44.6km、一日に18億9000万リットルという量の水を運ぶという壮大なプロジェクトに、当社がコンサルタントとして参画する運びとなったのは、それまでのマレーシア国内での業務実績を認めていただけたことが大きな理由でしょうね。1996年の首都大停電以来、東電グループではTNB(マレーシア電力公社)の水力・火力発電所を含む電力設備建設を支援し、結果を残してきましたから」(M・O)。

CHALLENGE

TBMの行く手を阻む「超高温岩体」の出現

完成すれば、東南アジア最長となるトンネル掘削プロジェクト。工事は7つの工区に分かれ、そのうち4工区をNATM工法(ダイナマイトで発破後、コンクリートを吹き付けさらに山肌にロックボルトを打設する掘削法)、3工区をTBM工法(トンネルボーリングマシンと呼ばれる機械による掘削法)によって掘り進めて行った。日本国内の現場では発注者とコントラクター(建設業者)の2者間で工事を進めることが大半だが、海外の場合は当社のようなコンサルタントが中立の立場で入って、工事監理を行うことが一般的とされている。「我々の仕事は、クライアントであるマレーシア政府に代わって工事を監理すること。実際に作業をするわけではないが、工事に際しトラブルがあったり工期の遅れが出た場合などに、コントラクターと共に打開策を考え対応に当たりました」(M・O)。
現場を襲ったトラブル、その最たるものはTBM2工区で遭遇した「超高温岩体」の出現である。もちろんトンネル工事に高温岩体との戦いはつきもので、40℃前後の岩体が200~300mは続くであろうことは予想されていた。しかし、実際に現れたのは56℃という超高温の岩体が5kmほどにもわたって延々と続く光景。掘削機械を解体撤去する工程では、20分ほど作業して40分ほど休憩を入れないと作業員がもたないという過酷な状況であった。

SUCCESS

困難な現場を乗り切る、コミュニケーションの力

高温岩体以外にも、工程監理上でネックとなったのが東南アジア特有の気候だ。モンスーンの影響を大きく受け、年間2500~3000mm(日本の約2倍)の降水量がある地域。雨季になれば毎日2~3時間ほどスコールよりも激しい土砂降りに襲われ、外での工事はすべてストップせざるを得ない。高温多湿の状況下での作業も、また苦しいものだった。デング熱やマラリアなどの感染症対策も必要で、虫よけスプレーと体温計を常備し、初期症状の周知を徹底して異常を感じたらすぐにクアラルンプールの病院へ行ける体制を整えていた。
「厳しい現場でしたが、その中で仕事をする上で大切にしていたのは、周囲とのコミュニケーションでした。今回のプロジェクトではクライアントはマレーシア政府、同業のコンサルタントにオーストラリアとマレーシアの企業が入っていました。コントラクターも多国籍で、とにかく多言語が飛び交う毎日。日本では隣席の同僚とまでメールでやり取りすることもあると聞きますが、海外では直接の会話がもっとも重視されます。顔を突き合わせて、話をする。これが海外でのビッグプロジェクトを円滑に進める秘訣ですね」(M・O)。
工事最盛期には、4か国からなる計8名のトンネルエンジニアと地質エンジニアが付きっきりでデータ解析に当たり、適切な工事の指示を出した。コミュニケーションを重視したチームワークで、死亡事故を出すこともなく、トンネル工区は2015年3月に無事竣工した。

NEXT

プロジェクトの真の終わりを見届ける。それが我々の役目

トンネル工区が完了し、ダム工区でもダム本体の建造が終わって、いま現地では貯水池の水を貯めはじめている。しかしプロジェクトが終了したわけではない。先の超高温岩体の出現やその他のトラブルによって、工期は予定よりも延長してしまっている。契約書には、一日工期が延びるごとに遅延補償金の支払いが発生すると明記されており、こうした場合にどこまでが止むを得ない工期延長であり、どこまでがコントラクターの責任であるのか、その裁定もコンサルタントの業務となる。「我々は中立な立場で、契約に則り公平な判断をすることが重要です。現場をずっと見守ってきた者として、クライアントとコントラクターの双方に不満が残らないような形で決着がつけられるよう、慎重に議論を進めています」(M・O)。
工事が無事に竣工しても、終わりではない。クライアントにとって最良な道筋をつけ、満足していただける形でプロジェクトを締めくくる。それがコンサルタントたる当社の最終目標である。長期にわたるプロジェクトを成功裏に収めることができるか――現地での奔走は今もなお、続いている。

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